プリゴジン×ベルクソン特集号(科学基礎論学会欧文誌)

Special Topic "Temporalizing Physics: Bergson, Prigogine, and the Spectral Dynamics of Irreversibility"
Annals of the Japan Association for Philosophy of Science, Volume 34 (2025)

 

 平井がゲストエディターを務め、プリゴジンとベルクソンを主題とする特集号を刊行しました。プリゴジンは、散逸構造と非平衡の理論によってノーベル賞を受賞し、晩年には一般向けの著作でも大きな影響を与え、複雑系の視点を広く浸透させた人物として知られています。
 一方で、あまり知られていない重要な側面があります。プリゴジンは若い頃からベルクソンの時間論に触発され、晩年にはきわめてラディカルに、不可逆性=時間の非対称性の導出に取り組んでいたのです。
 観察者側の人為的な近似の効果として不可逆性を「処理する」のではなく、一般には時間対称と理解される力学の基本法則から厳密な数学的枠組みを用いて不可逆性を導出することを追究しました。

 ただしこの試みは、実利主義的な物理学の観点からは、具体的計算のメリットに直結しないため、物理学の世界で正当に評価されてきたとは言えません。他方で、その数学的な難解さのゆえに、哲学の側にも十分咀嚼されて流通してきませんでした。結果として、プリゴジン後期の時間論は、重要でありながら読まれにくい場所に置かれてきたと言えます。

 

 本特集では、こうした晩年の探究を支えた共同研究者であるトミオ・ペトロスキー先生をはじめとする物理学者・研究者とともに、この「後期プリゴジン」の時間への探究を、内在的にも歴史的にもレビューし、その射程と限界を整理します。とりわけペトロスキー先生には、プリゴジンの直弟子として研究を継承してきた立場から、他では得がたい包括的なレビューを提示していただきました。加えて各論文が、後期プリゴジンの企てが現代においてどのような意味を持ちうるかを、それぞれの角度から検討しています。
 本特集号が、物理学と哲学の間で長く宙づりになってきた論点を再起動し、次のステージの議論の「土俵」を整える一冊となれば幸いです。

 論文は全てオンラインで無料で読むことができます。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jafpos/list/-char/en